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家族看護学講義/つながりの看護学

近藤和子

今年(2015年)も、12月18日(金)東京大学医学部にて、健康科学看護学科家族看護学を選択した院生に向けた3・4限(13:00~14:45、14:55~16:40)の講義を担当させていただく時期になりました。講義は「家族支援に生かしたいマザーリング」といい、年に一度、3時間半かけて行います。

家族看護学講座は、1992年に杉下知子教授によって開設された教室です。

それに先立つこと1990年前後 2度にわたりカナダのカルガリー看護大学にて集中講義の留学の機会を杉下教授主宰が全国の看護師に呼びかけられました。その時、私も参加させていただきました。そのカルガリーで学んだ”家族看護学(family nursing)という新しい看護学の”ものの考え方”に、当時、まさに目を啓かれる思いがした感動は、昨日のことのように思いだされます。

1992年のこの講座のスタート時から担当させていただいてきましたから、もう、足かけ23年目になります。この講義を迎えると、1年の締めくくりの時が来たことを実感でき、毎年自分を労ういい機会になって、有難い想いでいっぱいになります。

フリーで単身、どこにも所属しない開業看護師として1982年から「マザーリング研究所」を営んできました。毎年講義させていただけるという拠り所があることに、大きな意味があることを感じるようになったのは、実は10年ほどたったあとでした。当初は重責に気が重くてしょうがなかったのです。

ですが歳を重ねるに従い、初代の杉下知子教授のご配慮が身に染みてわかるようになりました。

杉下先生は当時、ただただ社会の中での看護の視点を活かしたヘルスプロモーション活動に明け暮れていた、何の学位もない、論文実績もない私に

「年に一度、その、あなたの社会での活動とマザーリングというコンセプトの意味を後輩に語り継ぎなさい。」

とおっしゃいました。

「看護大学、大学院で学ぶ学生は、当然ながら書物の上の論文書きに長けていく。でも、看護はやはり実践の科学。経験値が大事であることに代わりはない。だからあなたのその、社会の中の経験を、語るだけでも意味がある」

と。

常に大局を見てこられた先生だからこそのアドバイスで方向付けをしてくださるとともに、のびのびと航海しながらもときには錨(いかり)をおろして仕事するというチャンスまで与えることで、職業的処世術を授けて下さったのです。

年に一度の学部会議にも、おりおりの記念行事にも呼んでいただけて、何より毎年新しい学部生、院生との出会いの場を授けてくださいました。それは、2代目の教授として就任された上別府教授になっても受け継がれて、それで、もう23年もの長きにわたり、家族看護学教室の末席をよごさせていただいているというわけです。

当初は、古くて新しいマザーリング(ドゥーラ)=情緒的支援(エモーショナルサポート)の意味と意義を解説。そしてその後半は、そのマザーリングの視点を活かしたヘルスプロモーション活動の実際の展開、顛末を語ってきました。

90年代は企業や公的組織とのかかわりが大きなテーマとなり、育児グループを推進させた株式会社ネピアと電通アイの企画でネピアの「赤ちゃん学の会」のことを。さらに株式会社ベネッセとの共同開発の手紙による育児相談システムの構築、更年期の健康課題の解決に取り組んだ厚生省の班研究に主任研究員として、福岡をフィールドワークの展開にしたこと。

2000年になると東京大学医学部付属病院に新設された接遇向上センターでの、医療接遇センターの立ち上げにかかわった成果の話、などなど。その時々の仕事の企画から交渉、顛末の公開に務めてきたので、話の種が切れることはありません。

私は、看護という視点は病気の患者さん家族、そしてその背景としての社会、時代のニーズの中で、カナリヤのような存在だと思っています。はっきりと顕在化はしていない、どこかとらえどころのない問題や見えにくい状況下でも、看護のセンスが「何かがへん!」とアラームを発し、いま何が欠けているのか、何が時代の健康課題か? と感じ取らせてくれるのです。

学問の世界では、問題を解き明かし、説き起こすために論文を書く努力をしますが、この看護の気づきの表現は、論文だけではないと感じます。だから私は「社会的プロモーション」というかたちで同様の効果を上げるべく努力をしてきました。それが市民のひとりひとりに伝わっていき、影響をあたえる仕事になるだろうと。これまで、いくつもの企画を立ち上げ、プロモーション活動として表現してきたのです。

今年は、2015年11月14日からスタートした、看取り・新時代「在宅医療を知っていますか?」という、全6回、半年に及ぶ勉強会(勇美記念財団の助成による)を、紹介します。

企画の立ち上げから、交渉の進め方、予算編成、人的ネットワークの構築の仕方や苦労、失敗、混乱の回避策、非難中傷にどう堪えるか? ヘルスプロモーション活動を仕掛けていくには、①教育力 ②継続力 ③動員力が必要なこと。

それらを可能にするためには①対話力(ほうれんそう)によるクイックレスポンス ②コミニュケーション(接遇力・多様な人とつながる力)③言葉力(リテラシー ・理解し解釈して、分析し、記述して編集・表現する力 )が必要なことをまとめとして、お話し、今後の各自の錬磨に期待するという締めになります。

家族看護学教室の学生さんは、杉下知子教授、そして、上別府圭子教授の方針の一端である「机上の論理だけではない、実践による経験智も大切にしていくこと」をメッセージとして受け取っていくのですね。

そしてもし、プロモーションを立案、計画するプロセスに興味のあるかた、いつでもマザーリング研究所にお問い合わせください。成功も失敗も経てきたうえでの、こうしてみるといいよというエッセンスをお届けする講義もお引き受けできますから。看護だからできること、看護でなければできない夢を語りあいましょう。

あなたにも、あなたの地域、あなたの病院、あなたの街でヘルスプロモーションを仕掛けて欲しいから。  


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