去る2015年11月14日、連続6回の勉強会、看取り・新時代「在宅医療を知っていますか? 」の第1回がスタートしました。
勉強会の開始にあたり、在宅医療・地域包括医療にあたるケア職の”グリーフケア”の大切さと切実さを、自分の体験を通しておはなしさせていただきました。
いわゆるケア職である私たちは、人生の危機を経験する患者さんご家族を支援しますが、自らも人生の危機にめぐりあうことになります。
辛い人生の危機に遭遇した時、ケア職が適切なグリーフケアを受けるチャンスに恵まれ、またときには声をあげて、誰かに助けてもらっていいのだというメッセージを伝えたい。それも今回の勉強会を企画した目的と目標の一つです。
ケア職も、ケア職こそ、適切なグリーフケアを体験すべきだと思うのは、2005年以来、日野原重明先生の「スピリチュアルケアの体験による研修ツアー」に何度も参加させていただいたなか、おりおりにご教示いただいたことが府に落ち、納得できたからです。
・日野原重明先生の教え
下記は日野原先生が、研修ツアーやその後の「スピリチュアル学会」の講話などでお話しくださった事です。
「私たち医療者は自らを実験台にしなければならない。種痘を発見したジェンナーがまず、最初の実験に自分の子供に試したように。それは自らが経験する病や大きな喪失感に対しても、自分の中に起こる感情や困難を、しっかり見定め、観察して、それを自己開示し、良かった治療、対応策のひとつ、一つを記録しながら克服する。そのために自らの知識を活かし、さらに学び、その時の経験を、患者・家族への対応や治療関係に活かしていく。そうしていけば、どんな困難も、自らの教材にできる。」
これとほぼ同じような教えを、私は20代の時、高校の養護教諭として勤務していた時にも得ています。
仕事で大失敗をし、責任をとって辞職しなければ・・と思い詰めた時、当時の教頭先生が若い私を諭してこうおっしゃいました。
「教師というのは、プロの職業です。プロは自らの失敗を自らの糧として、そこから、学び、その観察と会得した経験を仕事に活かしてこそ、プロなのです。辞めれば、責任をとったことになると考えるのは、素人のものの考え方です。」
辛いけど辞職を思いとどまった経験を今でも忘れません。
日野原先生の教えをいただいたのは50歳過ぎてからでしたが、その時、私は20代の時に諭された教頭先生と同じことを教えてくださっていると感じたのです。
私は、2010年に夫を亡くしました。私たちは、第5回目の本勉強会にもご登壇いたく髙木慶子先生ともご一緒に、日野原先生の「スピリチュアルケアの体験による研修ツアー」にかつて同行していました。
そんなご縁もあって、告別式に日野原先生はお祈りに来てくださりました。
また日野原先生からは、その後半年がたった時、お手紙で
「和子さん、たちあがりなさい。」
と短いお便りをいただきました。
つまりそれは、
「大きな喪失感に見舞われた時、私たちはもう、立ちなおることはできない。モトの自分には、もう戻れないものです。でも、立ち上がることはできる。前のめりに立ち上がりさえすれば一歩前に足はでるものです。そこから、前進するのです。その体験をもとに、プロとしての援助職の役割を果たすのです」
という意味だと、すぐに理解しました。
・髙木慶子先生の教え
そして、もうひとつの出来事。2010年9月の告別式のあと、夫の遺志どうりの散骨を済ませたことの報告に、髙木慶子先生をお尋ねした際に、髙木先生は私におっしゃられました。
「大阪でのグリーフケア講座で、この経験を講義しなさい。いいわね。受講生は100人余り。そこで、話すのですよ。1時間の内容にまとめるのよ。」
びっくりしながら、もハイ!と返事してから講義の準備をしながら、納得しました。振り返り、講義案をまとめることは、私にはぴったりの”グリーフワーク”になっていることを。
講義が終わった時、髙木先生は
「とっても良かった。グリーフを学ぶ、受講生のとてもいい参考になった」
と労ってくださりながら
「援助職には、ただ慰めるだけではだ駄目なのよ。キチンとその人の職業につなげていくプロセスをサポートしたり、機会を与えたりすることもグリーフケアなのよ。」
とおっしゃいました。
おかげで、私はまさに、日野原先生のおっしゃる「立ちなおることはできなくても立ち上がること」ができました。
グリーフケアとは、なんと奥の深い概念でしょうか。
なんと全人格的で、愛情にも知性にも満ちた行いなのでしょうか!
私は、これらの経験をもっと、多くのケア職(看護職の仲間から介護等、すべてのケア職)の仲間に何とか、伝えたい。私と同じグリーフケアのチャンスに恵まれるようにしたいと願いました。
・グリーフケア研究所について
そこでご紹介なのですが、
髙木慶子先生は、東京の上智大学にグリーフケア研究所を創立され、そちらでは2年制のグリーフケア人材育成養成講座が実施されています。
2016年度の募集についてはこの11月10日~11月25日までが出願期間です。受講生になれば、何方でも、髙木慶子先生のグリーフケア論を学ぶことができるのです。
現在2期目の受講生がいます。私もその受講生の初期講座を「優しさの贈りものマザーリング・エモーショナルサポートの実践から」と題して、援助論の講義を2時間×2回担当させていただいたところです。
受講生の熱心さに支えられて、これまでの苦労が吹き飛ぶ思いがするのは、きっと、他の講師の先生方も同じだろうと思います。
また、2016年4月には上智大学大学院実践宗教学研究科 死生学専攻修士課程が創設されます。
(上智大学実践宗教学研究科死生学専攻設置準備室 電話03-3238-3776)
是非、みなさまもご賛同いただけますように。お力添えをいただけますように。
よろしくお願い致します。
近藤和子