東大病院で10年あまり続いている「高齢者教室」では、毎年ご高齢者や一般市民を対象に、高齢者医療の「ものの考え方」を啓発し続けています。
この教室は高齢者の健康学を知っていただくために、老年病科の教授が率先して、科に所属する若手医師たちも総出で行われ、地道に毎年継続的に実施されている講座です。
※高齢者とは? 65歳以上を前期高齢者、75歳以上を後期高齢者ととらえます。(ただ、60代は中高年の延長という考え方でカバーできるようになってきており、高齢者医療は主に75歳以上の「後期高齢者」が対象になると考えたほうが実態にあうようです。)
高齢者の病態は複雑にもかかわらず、マスコミによる一面的な医療情報も多く、しかも若年者と比べて、パソコンなどによって自力で情報検索する習慣のない方も多いため、普及啓発をになうこの教室の活動は、とても有意義なものだと思います。
高齢者教室では、高齢者医療の実態を良く知る東大老年病科の医師たちが、直接一般市民向けに語りつづける努力をもう、10年前から続けられておられるのです。
高齢者医療の考え方のポイントは、
①高齢者の病態の複雑さを理解してほしい。(中高年の治療アプローチとは異なる)
②病気を治す思考=レバ、タラ思考から、病気や障害ととも暮らし、そのつど、デハどうするか思考に切り替えてほしい。
③高齢者自身とそのご家族が、病気や障害とともに今できることを大切に。衰えても嘆かずに、その時々で借りられるサービスは遠慮なく借りて、平安で、優しい関係性を周囲の人や環境を整えて欲しい。
というもの。
これまでできていたことができなくなる哀しみを、本人もご家族も医療者も受容していく姿勢が必要となります。ご家族の理解も大切です。なんでも「治して欲しい。」「今より元気になってほしい。」「それができる治療をしてくれ」と迫るだけでは、無理がでてきます。
完治や改善が無理と知ると、病院や介護施設に対して「専門職の技量がない」とばかりに責めるご家族も多いです。
「あなたたちは〇〇(医療、介護等)のプロでしょ。だったら、もっと元気に何かができるようにしてくれ」などと、ご家族から快復だけを期待をしつづけられては、提供する医療、介護職者はプロと言えども疲弊してしまうでしょう。
高齢期ならではの限界があることや、具体的事情をもっと上手に、頻繁に伝え続ける必要がありそうです。
人間には「成果のみを求める思考」から一歩進んで、弱さを受け容れ「今あるものを大事にする思考」へのターニングポイントがやってきます。高齢者医療とは「予期的危機介入」を意味する大事な保健学習なのです。
連続講座ですので、来年の3月2日まで、まだ10回もあります。毎週水曜日の午後2時~3時までの1時間。あなたも、カルチャーショック体験をどうぞ、いかがですか?